受いれる

加島祥造さんは


詩人、翻訳家、墨彩画家であり、タオイストでもあり


この人の老子関連の詩が妙に心に響くので、


今回は「受いれる」という詩を抜粋して紹介します。


以下抜粋
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人は、生まれると
光を、空気を、大地を受いれた
求めず　ひたすら　受いれた
そして母の愛を受いれ　
やすらいでいた

自然はあなたを生み　生かしてゆく
あなたははじめ　自然のくれるエナジーを
受いれて生きる

この関係は一生涯続く
このはじめの自分こそが
一生涯自分とつながる自分なのだ

はじめの自分
本来の自分、とも呼べる
それはあなたの　無意識に潜んでいる
体に脈打っている　その人の命をいつでも助ける
すばらしい能力を抱いている
ちっとも社会に出ないでいるが
でも、もっと大切な自分なんだ

はじめの自分は　無意識の自分だ
頭で図って行動しない
過去や未来を考えて行動しない

なぜ　はじめの自分がそんなに大切なの？
なぜならそれは　命の活力の元だからさ
それも　人の一生にわたって　変わらないのだよ

なぜ？
なせなら　はじめの自分は
自然を受いれた命だからさ
言いたいのは　両方のバランスが大切だってことだ
現代に生きる人は　社会の自分にばかり支配されて
心は固くなり　柔らかな命の自分を
受いれることが難しくなっていく
それがすべての苦しみの原点だと言えるんだ

いまの恐怖　いまの不安　いまの苦しさ　いまのくやしさ
いまの暗さ　いまの悲しみ　いまの怒り　いまの絶望

すべては　社会の自分の起こる変化だ
はじめの自分はずっと変わらないで　やすらいでいる
命のエネルギーを出し続けている
社会の自分の変化を　黙って受いれている
はじめの自分は　とても辛抱強いんだ

いつも待っているんだよ
十分にエネルギーを出せる時を
いま　はじめの自分を受いれるの？
そうだよ　あの喜びとやすらぎの自分は
いま！現在の自分の中にある

でもどうやったらいいの？
素直な願いに耳を澄ませて　受いれれば
喜びとやすらぎにつながるんだ
耳を澄ます　
次の自分の求める声じゃなくて
はじめの自分の求めない声の方にね


わからない
それぞれ、性質も環境も違うからね
悲しみ、恐れ、苦しみはみな違う
でもね、ひとつだけ言えるんだ
みんなそれぞれが「はじめの自分」を持っている
あのやすらぎと喜びの自分を
呼びおこせる、ということだ


「はじめの自分」」に戻るには　どうしたらいい？
その道はいくつかある　
ひとつは「自然」の中にはいってゆくこと
もうひとつは　大きな変化を受いれること

私たちの心は
怖いと、ことわる
怖いと、こわばる
怖いと　こだわる
怖いと　混乱する

陽の光のなかに立つと　影ができる
その影を怖がって　逃げようとする人がいた

走りだす　いくら走っても
影はついてくる
疲れはてて　倒れる
立ち止まって　木陰で休めば
影は消えるんだがね

根のない恐怖に　おびえないことだ
ふりそそぐ不安に　ふるえないことだ
みんな　幻だと見ぬくことだ

いまの自分を　受いれる目で
見直してみよう
不安と恐怖にとりつかれた自分は
自分のすべてじゃあない　とわかる
根のない恐怖は　ただ過敏な神経に
はりついているだけだとわかるよ


自分はなにか大きなものにつながり
その働きを受けている　と感じたとき
不安や恐れの影は消えてゆく
太陽の光が差しこんだときのように

いつも焦っている人は　みんな
いまの自分を受いれない人だ
恐れて　押しのけると
まわりに溜まりはじめる

受いれるとは　諦めるということだと
人は思っている
「あきらめる」んじゃなく
「あきらかにする」ということさ
たとえば　恐れは案外に小さいもの
と明らかにすることさ


「受いれる/加島祥造」より